Lucid Dream






当日発表にも関わらず、会場は早々に満席になった。立ち見のトレーナーまでいる。
あのサブウェイマスターの“本気”が、高みに辿り着けなかった一般客にも公開されるらしい。その噂は人を伝わり、インターネットの網に広がり、これまで見たこともない数のトレーナーがバトルサブウェイに集まった。


「ようこそ、お待ちしておりました!」


ぴったり、10時30分。マルチモニターに2人の男の姿が映る。

此方、ここにいる誰もがよく知る、サブウェイマスター。黒一色のコートをはためかせ、手にはボールを構えている。
彼方、対面するのは金髪のトレーナー。海の向こうからやってきた、他地方出身の挑戦者。ここには彼を知っている人間はほとんどいない。しかし場所を変えれば地方一のジムリーダーと呼ばれていることを、は知っている。

は無意識に握っていた拳を開いて、祈るように両手を組んだ。
始まる。イッシュ最強トレーナーの一人と、シンオウ最強トレーナーの一人のバトルが、


「改めて自己紹介を…わたくしサブウェイマスターのノボリと申します!勝って勝って勝ちまくり、その先になにが見えるのか?目的地はどこなのか、考えつづけてひとつわかりました。勝った先のことは勝たねばわからないということです。ですので今回も全力でお相手いたします」
「オレはナギサシティのデンジ。 さあ! オレときみとでスパークする戦いをしようぜ! 」


今、始まる。


「では 出発進行ーッ!!」


瞬間、カメラが切り替わった。
そして表れたのはサンダースとシャンデラ。

サンダースは素早さ種族値が高く、またサポート技に富んでいることから、型とその技構成を一見で見破るのは難しい。そしてシャンデラは伝説ポケモンを除けば随一である特攻種族値145と、炎タイプとしては破格の耐性の多さがある。

第一戦は、バトルサブウェイ利用者にとっては図らずも馴染みの深いポケモン同士の組み合わせとなった。


「サンダース、みがわり!」
「シャンデラ、オーバーヒート!」


サンダースにシャンデラのオーバーヒートが迫った。
数値にして優に200を超える威力、しかし一歩早くサンダースの作ったみがわりにヒットする。

オーバーヒートを受け、一撃でみがわりが消えた。
同時に、オーバーヒートの追加効果でシャンデラの特攻が二段階下がる。――しかし持っていた“しろいハーブ”の効果で、すぐに元のランク補正に戻る。

計算しつくされた試合(バトル)運び。


「「…これが、サブウェイマスターの本気」」


偶然にも、の呟きはデンジのそれと重なった。


「ハハッ、わざわざイッシュまで来た甲斐があったぜ。強いトレーナーってのは、まだまだいるところにはいるもんだな。――サンダース、ボルトチェンジ!」
「シャンデラ、シャドーボールでございます!」


サンダースは持ち前のスピードでシャンデラへと電撃を浴びせると、物凄いスピードでトレーナーの元に戻った。
代わって、ランターンが現れる。シャンデラのシャドーボールはランターンに命中した。――しかし、ランターンに堪えた様子はない。

…シャンデラのタイプ一致シャドーボールを受けてあの様子ということは、おそらくランターンの努力値は特攻特防振りである。 オーバーヒート読みの交代かと思ったが、端から特殊受けに特化して育てられた上での起用である。

であれば、シャンデラがシャドーボールでランターンを落とすには、少なくとも二発が必要である。
けれど、その間にランターンのなみのりもしくはハイドロポンプでシャンデラは確実に落ちる。シャンデラを居座わらせるメリットはない。


「シャンデラ、戻りなさい!」
「ランターン、れいとうビーム!!」


デンジさんの選択は、シャンデラには効果がいまひとつである氷技だった。
しかしれいとうビームは交代して現れたオノノクスにヒットする。

効果抜群の、しかも特攻に最大に振られたれいとうビームがオノノクスのHPを大幅に削る。


「上手い!」


けれど持たせた“ヤチェのみ”の効果で、れいとうビームの威力は半減される。
――オノノクスの起用は、これを読んだ上でのことだったのか?


「一撃、一撃の度に、きみのポケモンの強さが伝わってくる。もっとも、オレのポケモンたちの強さも伝わっているだろ?」
「えぇ、あなた様はお強い。非常にお強い!あなた様のようなすばらしいポケモントレーナーに対して全力を出せることを、非常にうれしく思います!」


そうして、デンジさんを称えるように、ノボリさんは一礼した。
しかし、間を開けず頭を上げたノボリさんの顔には、あの、獰猛な笑みが浮かんでいた。


「ですが、わたくしもサブウェイマスターの一人。これより、圧倒的な攻撃力でもってあなた様をお相手いたします。――オノノクス、りゅうのまい!」
「!?ランターン、れいとうビーム!!」


れいとうビームがオノノクスに向かって発射される。
今度はヤチェのみも無い。この一撃でオノノクスは落ちる。


「…マジかよ」


マルチスクリーンを見つめるトレーナーが、思わず呟いた。

オノノクスは耐えた。満身創痍といった体だが、しかし立っている。
ノボリさんがランターンを指差す。


「オノノクス、じしんでございます!!」


効果抜群の、それも“りゅうのまい”によって強化された一撃で、ランターンが落ちる。


「戻れ、ランターン!…おつかれさん。お前、バッチバチに痺れてたぜ」


そう言うと、デンジさんはランターンのモンスターボールを腰に付けなおした。そして、そのまま手を止めた。

果たして、次は誰を選ぶのか。も固唾を呑んで見守る。

デンジさんの手持ちの中で最も速いのはサンダース。
竜舞を一度積んだオノノクスがサンダースを抜けるかどうかは、その努力値配分にかかっている。

あのサンダースはおそらく最速仕様。
オノノクスに131以下の素早さ努力値を振っていたなら、サンダースがまだ速い。132だったらオノノクスが上回る。
先ほどのれいとうビームを耐えたということは、ある程度HPと特防に振っているとみていい。その残りがどれだけあったか。

サンダースが抜けば、オノノクスが落ちる。
オノノクスが抜けば、サンダースが落ちる。

…それとも、別のポケモンを選ぶのか?

デンジさんがモンスターボールを掴む。そして、投げた。


「サンダース、チャージビーム!!」
「オノノクス、じしん!!」


二つの技が交錯するその時、マルチモニターが煙で覆われた。
「あっ、」――次の瞬間、特設ひろばが降って湧いたように騒がしくなった。


「…だ、誰か計算できる奴いるか!?」
「オ、オレ、ダメージ計算は出来るけどすばやさ計算は…」
「オノノクスの性格って何だよ!?」
「そりゃ、サブウェイマスターなんだから、ようきかいじっぱりなんじゃね?」
「その差がでかいんだって!おい、誰かスーパーで戦ったことのあるやついねぇのかよ!?」
「――黙って!!」


堪らず、は立ち上がって叫んだ。

しん、と静まり返る。
視線が集まる中、はマルチモニターを見上げ、続けた。


「…煙が晴れる」


再び注目がマルチモニターへと集まる中、の言葉通り、マルチモニターを覆っていた煙は薄くなっていった。
そして、その先に立っていたのは、


「わたくしのオノノクスは、素早さに127振っておりますので」
「厳選で妥協してたら、アウトだったってわけか……痺れるな」


サンダース、だった。


「ご謙遜を。ここまでいらしたあなた様が、ポケモンバトルで妥協するトレーナーであるはずがございません。ですからわたくしも全力でお相手するのです!――シャンデラ、出発進行!」
「サンダース、シャドーボール!!」


サンダースが、鼻先でシャドーボールを作り出す。そして間を置かずシャンデラへと投げつけた。
過たず、シャンデラにシャドーボールが命中する。再びの爆発。スピーカーから伝わる音にノイズが走った。

――しかし、シャンデラは浮いている。


「…チャージビームによって特攻が一段階上がった状態でのシャドーボールでも耐えるか!サブウェイマスターってのは、本当に強いもんだな!!!」
「しかし、シャンデラもシャドーボールの追加効果によって特防が一段階下がっております。次が最後でしょう。――シャンデラ、オーバーヒート!!」


シャンデラ最大火力のオーバーヒートが、サンダースに迫りくる。
サンダースは避ける素振りを見せるが、しかし交わせることなく命中した。


「戻れ、サンダース!――さぁ、オレの三匹目だ!行け、エレキブル!!」


デンジさん最後のポケモンは、エレキブル。
二本のツノの間で青白い火花を激しく散らし、シャンデラを威嚇する。


「ま…ますますブラボーでございます!たいへんよく鍛えられておりますね、素晴らしい!これ程心躍るバトル、終わらせてしまうのが勿体無うございます!!」
「オレのポケモンたちは全てトップクラスの実力。その中でもこいつこそが!オレの切り札!――エレキブル、じしん!!」


素早さで上回るエレキブルのじしんが、シャンデラに迫る。
――そして、シャンデラは地に落ちた。


「戻りなさい、シャンデラ!…あなた様とポケモンとの絆、そしてあなた様自身のトレーナーとしてのきらめき、わたくしには眩しいばかりでございます。…しかし、わたくしは地下鉄を守るサブウェイマスター!なによりも、ここで!負けるわけにはいかないのでございます。――ドリュウズ、出発進行!!」
「さぁ、どっちに転んでもおかしくない。最後まで、バッチバチに痺れるバトルといこうぜ!!」


「エレキブル、クロスチョップ!!」
「ドリュウズ、じしん!!」

2012.03.31. up.

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