今頃、「10まんボルトって知ってる?」とか言ってんじゃないかと。それとも、「きたきたッ!この!しびれるかんじがたまらない! さあ!オレときみとでスパークするたたかいをしようぜ! 」とか言ってるんじゃないかと。
何度も思いを馳せてはいるけれど、このバトルサブウェイ、偶然会うってのはなかなか無いようです。今でもセリフを覚えてるくらいには好きだったんだけどなぁ、デンジさん。もう会えないのだろうか。
だけどあの人本業はどうしたんだろうか。ジムは?ジムは放置なの?
「…さん、さん、ジャッジ終わりましたよ」
「あ…っと、ありがとうございます。それで、どうでしたか?」
「このブビィは、そうとう優秀な能力を持っている、そんなふうにジャッジできますね。ちなみに特にいい感じなのは、特攻と素早さでしょうか。最高の力を持っていますね」
2Vでそうとう優秀か…。
出来ればHPにもVが欲しかったけれど、うまく引き継いではくれなかったみたいだ。けれどタマゴ技の遺伝に成功した中では、この子が一番バランスがいい。
「今日もありがとうございます。またよろしくおねがいしますね」
「いえいえ、ぼくも好きでやっていることですから。でも、今回はどういったコンセプトなんですか?」
「昔、こんなことを言った人がいましてね。“オレが ポケモン だすとき アフロから ポケモン でてきたら あいては ビックリするだろうな! おもしろいと おもわないか?”」
「え、ど、どうでしょう?」
うわぁめっちゃ困ってる。
「言ったのは私じゃないですよー。でも面白いのか想像もつかなかったんで、だったら実際にやってみようかと」
「だからもう一匹がバッフロンなんですか。斬新というか、なんというか」
「アイテムを持たせるようにモンスターボールを持たせてみたんですが、うまいことバッフロンから飛び出してくれなくて。そりゃそうなんですけどね、言った本人は自分のアフロヘアーにボールを入れるつもりだったんで。でもそこまでは真似できないでしょう?」
「そ、そうですね。さんには、たぶん、アフロは似合わないんじゃないかと」
うわぁめっちゃ困ってる。
「まぁ、持ち物にモンスターボールは駄目だって駅員さんに言われちゃいましたから、残念ながら実現の予定はありません」
「そ、そうでしたか、残念でしたね…。…あ、そうだ、昨日、珍しいポケモンをジャッジしまして。それもすべてが素晴らしい能力の持ち主で、ぼく、わくわくしちゃいましたよ」
「珍しい…?」
ジャッジさんが珍しいと思うポケモンって、どんなだろう。
イッシュにいないポケモン?それとも、バトルサブウェイで使われないポケモン?
「オクタンです。イッシュではまず見ませんよね!あとはエレキブル、サンダース、ライチュウ、レントラー、ランターンでした。電気使いのトレーナーなんでしょうか。……オクタン?」
「あー…その人、知ってるかも。金髪碧眼の人でした?」
「はい。そういえば、今思えばイッシュ系の顔立ちではなかったですね。エレキブルにレントラーってことは、シンオウ出身でしょうか」
「ナイスジャッジ、大正解です。シンオウ最強と名高いジムリーダーだそうですよ」
しかしオクタンは連れてきたのにエテボースは置いてきたのか。
「道理で。ものすごく鍛えられているし、タイプは偏っているしで不思議だったんですよ。ジムリーダーなら納得です。…でも、どうしてオクタンを連れていたのでしょうか」
「きっとのっぴきならない事情があるんでしょう。その人って、これからの予定とか何か言ってました?」
「あぁ、言ってましたよ。スーパートレインで両サブウェイマスターに会えたら、ポケモンリーグに挑戦しようかなって」
でっけぇ!!志がでっけぇ!!
スーパートレインで、ってことは、もうノーマルでは両ボスを攻略したってことか。イッシュに来て、わずか3日で?バトルサブウェイのことをろくに知らなかったデンジさんが?…えぇぇぇさすがに予想外です。
「そうだ、さん聞きました?ここだけの話なんですけど、サブウェイマスター戦が“ここ”で見られるようになるんですよ」
「え?ギアステーションで、ですか?」
「そうです。喫茶店の隣に待合スペースがあるじゃないですか、」
ちょいちょいと手招きされ、耳を近づけると、ジャッジが小さな声で囁いた。
こそばゆさにもぞもぞと体を捩じらせるだが、しかし彼の言葉に思わず動きを止める。
「そこに大きなモニターを置いて、スーパートレインでのサブウェイマスター戦に限り、リアルタイムで中継することになったんです」
………。
「…えぇええええなにそれっ、すっごいじゃないですか!!」
「しぃっ、明日ゲリラ発表の予定なので、まだ漏らしちゃいけないんです。…集客率アップを見込んでのことだそうですけど、今まで謎に包まれていたスーパートレイン49戦目が公開されるなんて、本当にすごいことだと思います。――明日の午前11時と、午後2時です。ちゃんとギアステーションにいてくださいね?」
「ふわぁぁ、いますいます!!この感動をっ誰かに伝えたいっ!ANA、穴はどこかにないですかっ!!」
「がんばってー、耐えてー」
うぅ…ジャッジさんまじドS。
でも、明日発表ってことは、誰かスーパートレインで48連勝しそうってこと?
……まさかなー。でもなー。このタイミングで違う誰かだった方がおかしいよなー。本人を探して聞いた方が早いか?でもこの3日まったく影も形も見掛けなかった相手に、そう簡単に会えるだろうか。
「あっ、だ!」
急に名前を呼ばれ、顔を上げると、向こうからクダリさんが走ってくるのが見えた。
「…なんだ、白ボスか」
「なんだってなに!ひどい!でもどうしたの?ここスーパーダブルのホーム。挑戦するの?」
「あっ、間違えた」
「ひどい!ぼくの純情をもてあそんで楽しいの!!」
考え事をしていたらノーマルダブルのホームと間違えて階段を下りたらしい。
それだけだってのに酷い言い草だ。やっぱりシングルにしようかな。……いや?この人の方が簡単に口割りそうじゃないか?
「クダリさん、聞きたいことがあるんですが」
「なになにっ、なんでも聞いて!」
「明日、スーパートレインに乗車する予定ですか?」
「うん、午後から!…って……聞いた?」
突然ゼンマイが歪んでしまったように、がたがたとぎこちなく首を傾ける白ボスに、はにっこり笑って返す。
「はい。ジャッジさんに」
「うわーんジャッジのばかっ、ぼくがに伝えるつもりだったのに!」
「じゃあ、あれって本当に本当なんですねっ」
ジャッジさんを疑うわけではないけれど、この人が言うなら確実だ。
あーもうジャッジさんはおれのよめ!!誰にも渡さない!!
「ってことは、午前にやるのが黒ボスですかっ。わたし絶対見ますねっ!」
「バトルしてないのにこんなにテンション高い初めてみた。顔あっかーい」
「それでそれでっ、相手は誰なんですか!?」
勢いあまって白いコートを何度も引っ張る。
思いのほか力を入れ過ぎて白ボスの顔がえらく近いところにきたけれど、全く気にせずに引き寄せる。たぶん今私の顔って大変なことになってると思う。けど気にしない。
「デレた!がデレに転じるきっかけってバトル関係だけなの!?」
「クダリさん!クダリさん!!」
「うーん…でも、知らないかも。シンオウ出身のね、」
「デンジさんですかっ!!?」
「え、知り合いなの!?」ということばを無視して、拳を握る。
い、今ならスカイアッパー打てる。空飛んでるポケモンにも打てる。…こうかはいまいち?確1で落としてやんよ!!
「っしゃあ!!」
「うわぁ漢らしいガッツポーズ。それでどういうことなの?ってシンオウに行ったことないよね?直接会ったことないよね!?」
「デンジさんにはサブウェイで会いました!バトルサブウェイに案内したのは私です!!あとシンオウに行ったことは私は無いですけど“わたし”はもちろんありますっ、ボールカプセルをわざわざ取り寄せたのも、厨パと何度扱き下ろされようとガブリアスゴウカザルドータクンを使い続けたのもっ、全部ぜんぶぜんぶっ、プラチナ…シンオウ地方が好きだったからですよぅ!!」
「そうだったの!?」
しかもDPtキャラクターで一番好きだったデンジさんと、サブウェイマスターの本気のバトルが見られるなんてっ!!
「うっ…ぐすっ」
「えぇっ、なんで泣くの?泣くほど嬉しいの?でもこんなとこで泣かないで!」
「ずみまぜん〜…」
慌てて目を拭うが、…うぅ駄目だ止まらん。
「あー白ボス、何ちゃん泣かせてるんですか。黒ボスに言いつけますよ」
「違う!ぼくのせいじゃないよっ…あれ、でもぼくのせいでもあるのかな?」
「やっぱり。――おーい、ちょっと来てくれ!」
「やめてー人呼ばないでー!来ないでー!!」
「何ですか、ってあれ、どうしてさん泣いてるんですか?白ボスが泣かせたんですか?」
「現行犯だ、白ボスも犯行を認めてる。黒ボスに連絡入れるから、代わりに受付やっといてくれ」
「ノボリのせいでもあるよ!ぼくだけのせいじゃない!」
「言い訳は署で聞きます。さぁ、白ボス、行きますよ」
「りょーかい。――さん、目は擦っちゃいけません。後で赤くなっちゃいますよ。これ使ってください」
突然目の前に現れたハンカチを受け取って、目頭を押さえる。
そうしていると、やっと涙が止まって、前が見られるようになった。顔を上げる。
「うぅ…ありがとう。これは洗ってお返します。…って、あれ、あなたってここの受付係じゃないですよね?あれ?さっきまでそこにいたクダリさんと、ここの駅員さんは?」
「はい、普段はマルチトレインで働いてます。ここの駅員は所用でちょっと外れてるんで、巡回中の自分が代わりにやってます。別に返していただかなくて結構です。差し上げます。いらなかったら捨ててください」
「そんなわけにも…」
「でも、本当にいいんですよ。自分、さんに憧れてますから、プレゼントだと思って受け取ってください」
「えっ…」
えっ、なんかキュンとした。
確実に、トレーナーの私にってことだろうけど、こういうのには免疫がないからうっかりときめいちゃうんですよ。
「…じゃあ、遠慮なく、いただきます」
「どうぞ。今度はマルチトレインでお会いしましょうね」