「バトルサブウェイへよう…こそ……、挑戦者というのは、様とトウヤ様でしたか」
「なんだろう、ぼく嫌な予感しかしない。もう帰りたい。それからスーパー用の子たち連れてきたい」
「わたくしもです。何故わたくし共には下車ボタンが無いのでしょうか」
ごちゃごちゃ言ってないで、早く口上を聞かせてくださいよ。
私はトウコちゃんじゃないけど、ある意味半身のトウヤくんとはすっごい勝負を繰り広げられる。これで終わりなのが勿体無いくらい。
――そうでしょ?ねぇ、トウヤくん。
――えぇ、そうですね、さん。
顔を見合わせて、それからもう一度サブウェイマスターに向き合う。
「こんにちは、サブウェイマスターのノボリさん。お待ちしてました」
「こんにちは、サブウェイマスターのクダリさん。会いたかったです」
「「だからはやく始めろ」」
サービス精神でスマイルまでつけたら、何故か悲鳴が上がった。
ひどいよね、こんないたいけな年少トレーナー二人つかまえて悲鳴って。
「わ…わたくしサブウェイマスターのノボリと申します。片側に控えるのは同じくサブウェイマスターのクダリです。さて、マルチバトル。お互いの弱点をカバーし合うのか、はたまた圧倒的な攻撃力を見せるのか、どのように戦われるのか楽しみでございますが…あなた様とパートナーとの息がぴたりと合わない限り勝利するのは難しいでしょう。ではクダリ、何かございましたらどうぞ!」
「うわーんっ、ルールを守って安全運転!ダイヤを守ってみなさんスマイル!指差し確認、準備オッケー!目指すは勝利!出発進行!」
出発進行、のタイミングでボールを投げる。
「サマヨール、おねがい!」
「行け、ツンベアー!」
相手はダストダスとアイアント。
「トウヤくん、確認だけどダストダスはくろいヘドロでアイアントはオッカの実だからね!」
「了解です!ついでに技構成もバッチリ暗記済みです!!」
「あっずるい!!ぼくの使うサマヨールもトウヤの使うツンベアーも初めて見た!」
情報を制する者がバトルを制する。
一匹目はここまでずっと一緒なのに、モニターで見ていなかった方が悪い。二匹目?出すまででも無かった。
「今度はトリックルームパーティですかっ、たまには真っ当に殴ってくださいまし!」
「ノボリ、その発言は誤解招く!ちゃんと略さずにフルアタ基本型にしてって言って!!――アイアント、サマヨールにシャドークロー!」
「はっ…すみません、――ダストダス、ツンベアーにきあいだまです!」
…ふうん、両方とも殴りにきたか。
でもどうかな。
「ツンベアー、まもる!」
「サマヨール、トリックルーム」
ツンベアーに迫るきあいだまは、しかしまもるによって阻まれる。
アイアントはすばやくサマヨールへと肉薄し、口器でサマヨールに噛み付くが、しかしサマヨールは何事も無かったかのようにトリックルームを作り続ける。
やがて、21両目全体が薄い虹色の幕で覆われた。
「かったっ!このサマヨールかったい!!」
「輝石持ちサマヨールにこの程度のシャドークロー、効きませんよ!――さぁトリックルームが完成しましたっ、サマヨール、アイアントにおにび!」
「ツンベアー、ダストダスにあくび!」
サマヨールの手から打ち出されたおにびが、過たずアイアントに命中する。
アイアントはやけど状態になる。これで攻撃力が半減、アイアンヘッドもいわなだれも怖くない。
その隣で、ツンベアーが大きく口を開いてあくびをする。ダストダスがつられてあくびをし、とろん、と半眼になる。――ダストダスを眠らせてまで居座るリスクはない。次のターン、黒ボスは交換する。
「きったない!トリル作ってるのに殴りにこないなんて!!」
「褒め言葉ありがとうございます!」
「ダストダス、サマヨールにどくどくです!」
「アイアント、いわなだれ!」
ダストダスが撃ち逃げしたどくどくで、サマヨールがどく状態になる。
居座り耐久型のサマヨールにこれは痛い。かもしれない。無策だったら。
アイアントのいわなだれはサマヨール、ツンベアー共に当たるが、しかしやけど状態で威力の半減したそれではさほどのダメージにはならない。
また後攻になっては、いわなだれの怯み30パーセントの追加効果は無意味になる。――白ボスだってそれは分かっているだろうにあえて指示したのは、ツンベアーのタスキを警戒して、潰そうとしたのか。…だけどツンベアーの持ち物はきあいのタスキじゃないんだよね、言わないけど。
ダストダスに替わって出てきたのはギギギアル。
また鋼か。まったく、相性が悪いったらありゃしない。でも、ということは、白ボスの2匹目はデンチュラで確定か。万が一違う子を連れてきているようだったら作戦を少し組み直す必要があったけれど、別にそんなことはなかった。
「サマヨール、かげぶんしん!」
「あーもう!アイアント、サマヨールにシャドークロー!!」
…なんかクダリさんが発狂してるけど面白いから放っておこう。
「ギギギアル、お行きなさい!」
「ツンベアー、ギギギアルにきあいパンチ!!」
ギギギアルがボールから現れた瞬間、ツンベアーがギギギアルに迫り、虹色に輝く拳を叩き込んだ。
「…っしゃあ!!」
そしてトウヤくんがガッツポーズをする。
――…交代読みきあいパンチが決まるとか、気持ちいいだろうな!!
「サマヨール、もっかいかげぶんしん。…これで、状況的には4−3ですが、」
「こっちのポケモンは、ほとんど無傷です。どうしますか?サブウェイマスター」
そう挑発すると、ノボリさんはもう一度ダストダスを出し、帽子を深く被り直した。
一方でクダリさんは更に口角を上げ、目をギラギラと輝かせる。
「様の知識と戦術に、トウヤ様の運命力と爆発力を合わせると、ここまで脅威なのですね」
「だけど最後まで諦めない!だってぼく達はサブウェイマスターだから!!」
トレインを覆っていた虹色の幕が、次第に薄くなっていく。
「クダリ、このターンでトリックルームは終わります」
「あっち?」
「ええ、狙うのはそちらです。確率は五分五分、いや、それ以下ですが――…」
どっちだ。どっちを狙うつもりだ。
「…トウヤくん、」
「えぇ、ここが勝負所ですね」
頬を汗が伝い落ちる。
トリックルームが切れた今、次のターンは確実に後攻になる。
「アイアント、いわなだれ!!」
「ダストダス、サマヨールにサイコキネシス!!」
「受けて、サマヨール!!」
来た!!
どうやらサマヨールに絞ったらしい。二匹の攻撃が間髪入れずにサマヨールへと襲い掛かった。
けれど急所に二度当たって、更に怯まない限り、この攻撃でサマヨールが落ちることはない。耐えてみせる。耐えて…、
「サマヨール、ねむる!」
「ツンベアー、ぜったいれいど!!」
攻撃態勢にいたアイアントに、ツンベアーのぜったいれいどが命中する。
「えっ…うそ、アイアント!」
「しっかりなさいクダリ、まだバトルは続いてますよ!!」
30パーセントの確率を引いてぜったいれいどを命中させたトウヤくんに、さすがのクダリさんも驚愕し、動きを止める。
しかしすぐにノボリさんが喝を入れ、フォローする。
…それにしても、きあいパンチを成功させ、更にぜったいれいどを当てるトウヤくんの、この引きの良さってなんなんだろう。
これが英雄の、選ばれし人間たる所以なのだろうか。…いいや、そんなわけない。さっきのきあいパンチは、ちゃんと戦略的に運んだ結果の成功だ。トウヤくんの強さは、運の良さだけじゃない。
「デンチュラ、おねがい!ツンベアーにワイルドボルト!!」
「っ、あぁ、ツンベアー!」
デンチュラのワイルドボルトが、ツンベアーの急所に当たった。
二度のいわなだれのダメージにワイルドボルトのダメージが嵩み、とうとうツンベアーが落ちる。
そして、攻撃の反動でデンチュラも弾き飛ばされた。ツンベアーに与えたダメージの四分の一をデンチュラは受けているはずだ。
「ダストダス、サマヨールにサイコキネシス!」
もしデンチュラの特性がきんちょうかんじゃなくて、ツンベアーがちゃんとオボンの実で回復出来てたら。それとも、仮に持ち物がピントレンズじゃなかったら。そうしたら戦況は変わっていただろう。…いや、“もし”も“仮に”も、今考えることじゃない。デンチュラの持ち物は事前に知っていたのだから、こうなることは想定しているべきだったのだ。
サマヨールが起きる気配はない。
「トウヤくんっ」
「…あ、はいっ!行け、ローブシン!」
の声に我に返ると、トウヤは素早くモンスターボールを投げた。
煙の中から、ローブシンが現れる。
「ダストダス、ローブシンにサイコキネシスです!」
「ローブシン、デンチュラにストーンエッジ!!」
ローブシンから放たれた石刃が過たずデンチュラに命中し、デンチュラが落ちる。
――これで残りは、ダストダス一匹!
「サマヨール、ダストダスにおにび」
「!…このタイミングで起きますか!」
目を覚ましたサマヨールに、おにびを指示する。
特殊型のダストダスにとっておにびはさほどの脅威にはならないが、毎ターン八分の一HPを削るそれは決して無駄にならない。
「ダストダス、ローブシンにサイコキネシス!」
「ローブシン、じしん!!」
けれど、それで終わりだった。