Lucid Dream


!!▲▽てつどういん捏造注意▲▽!!


*トリップ回数がまだ片手で足りる頃の話。

ボクは地上に繋がる階段の先に何があるのかを知らない。
いつまでここにいるのだろうか。ボクはこの先もずっとここにいるのだろうか。


「そういうわけで、ボクは、生まれてから一度もここを離れたことがないのです」
「そうですか…。実は“わたし”も、今のところ、この場所以外の記憶を持っていません」


ガタンゴトン、ガタンゴトン、電車が走る。いつもと同じ道、いつもと同じ音。
それに安心するのも当たり前で、生まれてからずっとここにいるボクにとっては電車がゆりかご代わりだった。

ここにいれば落ち着く。安心する。だから気が緩んで、重いだけの身の上話を彼女にしてしまったのかもしれない。
それを最後まで静かに聴いてくれた彼女が、それ以上に深刻な話を口にするとは思いもしなかったけれど。


「どういうことですか?」
「うーん…どう説明すればいいやら。二重人格…といえばいいのか。とにかく、ある程度時間が経つと、強制的に意識が切れちゃうんです」
「それは、病院にいった方がいいのでは無いでしょうか」


記憶障害か解離性障害か。医者でない自分には正しい判断が出来ないが、自覚があるならば早めに治療したほうがいいのではと思う。


「お気遣いありがとうございます。けれど原因は分かってますし、今のところ実害も無いので。不思議なことに、二回目は一両分、三回目はトレイン一周分、四回目はライモンのホームに着くまでと記憶が伸びているので、その内“わたし”も外に出られるかもしれません。――そしたら、ご迷惑でなければ、外のこと、ジャッキーさんにお伝えします」
「いいんですか?確かに外の世界には何があるのか、とても気になってますが…、でも、あなたにご迷惑はお掛けできません」
「迷惑だなんてとんでもない、わたしたち、同じ穴の狢(ムジナ)じゃないですか」


そうだろうか。そうかもしれない。地上を渇望する点では、ボクとさんは同じだ。
でも、まだボクに外に出る勇気はない。


「だけどもしジャッキーさんも外に出られそうでしたら、いつか桜を見に行きませんか」
「サクラ、ですか。花ですか?」
「えぇ。私の故郷の、国花です。こっちでも咲くところがあるって聞いたので、いつか見てみたくて。春の、それも初めの頃じゃないと満開じゃありませんが」
「春先に咲くんですか。今は夏ですからずいぶんと先の話になりますね」
「えぇ、ずいぶん先ですね」


電車のスピードが次第に遅くなる。もう、駅に着くようだ。


「ではジャッキーさん、対戦ありがとうございました」
「ぼくこそ、ありがとうございました」
「次会った時、もし私が“わたし”じゃなくても、“わたし”は覚えてますから。ちゃんとお伝えしますね」
「楽しみにしてます」










「うわっ」
「ウワッテ何、傷ツクナァ」
「あ、すみません。…うわっ、なんかエロい(小声)」
「聞コエテルヨ、チャン」

わぁごめんなさい。

「…あれ、わたし名前言いましたっけ?」
「初対面ダネ、デモボスカラ聞イテルヨ。ウン、廃人ナノニ結構可愛イネ。オレキャメロン、ヨロシクネー」
「トリアエズ世界中ノ廃人ニ謝レ。…って片言うつった!あ、よろしくお願いします」


互いに向き合って、ボールを構える。
3対3。今日も元気にシングルトレイン。


「始メニ言ッテオクケド、オレ、運転スルノハ得意ダケド、ポケモンヲ操ルノハ苦手。ソレデモバトルスル?」
「したいです」
「コレダカラ廃人ハ。…デモ意外ニ上手クイクカモネ。ダッテオレ、テクニシャンダシ」
「うわっ、なんかエロい(大声)」










「僕は電車さ。決められたレールの上をただ走るのさ」


これが本気か比喩表現か分からないから廃人は怖い。


「それでラムセスさん、今日はどの駅に止まるおつもりで?」
「君の駅には当分留まれそうにないのさ。だからどこまでも突き進むしかないのさ」
「その結果カナワタウンの車両基地まで進む発想は無かった。ちょ、これ、どうやって帰ればいいんですか?」
「心配ないのさ。電車は前か後ろにしか進まない、同じ道を行ったり来たり、電車は偉いと思うのさ。それに、明日になれば誰か気付くのさ」
「えぇええ一晩ここってわけですか誰か助けてここ超暗いぃ」










「ドウシテココデ働イテイルノカッテ?電車が好キデ好キデ好キデ仕方ナイカラダヨ」
「ほう、それは素晴らしいですね」
「好キナコトヲ仕事ニスルト毎日幸セダヨ!ハ違ウノ?」
「うーん…好きとかは、二の次でしたね」


就職氷河期だったから、と、言っても分からないだろうけど。
内定が出た会社に滑り込んだだけで、好きだとか将来性だとかはあまり重視しなかった。実際、今やってることは大学での研究とはまるで無関係な事務職だ。


「ソレハ駄目ダヨ!ソウダ、今カラデモ、ココニ就職スレバイイ!!」
「ここ…バトルサブウェイに、ですか?」
ノ実力ダッタライツデモ就職デキルヨ。本当ハ運転モ出来タ方ガイイケド、オレガ教エルカラ心配ナイ。オレシャベルノ苦手ダケド、電車ノコトナラ負ケナイ。何デモ答エル。何デモ聞イテ」


…犬っぽいなこの人。
無いハズの耳と尻尾が見える。しかも全力で振ってる。特にありません、なんて答えたら、しょげて耳ぺたんってしそう。それはそれで見てみたいけど、私はどこかの誰かと違ってSじゃないから止めとこう。


「えーと、じゃあ、どうしてトレインって銀色のものが多いんですか?」
「ソレハデスネ、“ステンレス”ノ色ダカラデス。バトル用ノ電車ハショッチュウ修理ガ必要ナノデ、塗装ヲ塗リ直ス時間ガアリマセン。ソコデ、塗装シナクテモ済ム、ステンレス製ノ電車ヲ使ッテイルノデスネ。マタ、ステンレスハトテモ燃エニクイノデ、火災防止ニ適シテイルノデス」
「あー、なるほど、地下空間だと、何より火災が怖いですもんねぇ。っていうかシンゲンさんは電車のことだと敬語になるんですね」
「チナミニ、トレインノ横ニアル“ラインカラー”ハ“フィルム”ナノデ、簡単ニ直セマス。他ニハアリマセンカ?」


聞いてねぇわこの人。
鉄道員の半分って、特性:ぼうおんだったりするのか?


「ほ、他ですか?他は、…うーん……、今のところないですね、すみません」
「ソウデスカ…、マタ聞イテ下サイ。電車ガ好キ過ギマス。病気ナノカモ知レナイ。病気ダッタラドウシヨウ。電車ノコト話セナクナル」
「それはボスたちの“廃人”と同じ類です。この先治るかは分かりませんが、心配しなくても、話せますよ」
「本当?ダッタラ、コレカラモズットト電車ノ話シタイ。モ電車ヲ好キニナッテ下サイ」


「うっわ純粋すぎて目が溶ける」










バトルサブウェイといえども、駅員が行うのはバトルばかりではないのです。
むしろ、事務作業の方が多いかもしれません。

今日も今日とてわたくしは執務に追われております。
それもこれも、クダリが逃亡したからでして…。あの愚弟は今どこにいるやら。今度こそ、見つけ次第椅子に縛り付けた方が良いでしょうか。


「せやけどちゃうんやろ?」
「ちゃいますねー」


おや、珍しい組み合わせですね。
忘れ物承り所の前にいるのは、様とクラウドではありませんか。


「クラウド、勤務中ですよ。お客様の目の届くところでのおしゃべりはあまり関心できません」
「あぁボス、すんません。せやけどわしらは自分を待っておったんですよ。なぁ?」
「そうですね。お待ちしてました、ノボリさん」


自分?あぁ、わたくしのことですか。
クラウドのことばは今でも時々分かりません。けれどこれまでアクセントやイントネーションはあちら訛りでも、言い回しだけはこちらに合わせていたというのに、どうしたのでしょうか。それに、様が全く違和感を覚えていらっしゃらない様子であるのも気になります。
しかし今は、様をお待たせしてしまったということが最も重大な問題です。


「わたくしをですか?それは失礼しました。それで様、どのようなご用件でしょうか」
「これ、黒ボスのでしょう?」


そう言って様が上着のポケットから出したのは、サブウェイマークの刺繍された黒地のハンカチ。
確かにわたくしの持ち物です。しかし何故様がお持ちなのでしょう。


「さっき、シングルトレインのプラットホームで拾ったんです。それでここに来たら、偶然クラウドさんお会いして」
「せやけど、5分もすれば黒ボスがここ通るでって言うたら」
「だったら待った方が確実かなー、なんて結論に」
「それで、のイントネーションが標準語と違うもんですから、どこ出身かって話をしとったんですわ。ジョウト系やあらへんのやろ?」
「違いますねー。ちなみにカントー系でも無いですよ」


…違いますか?わたくしにはカントーのものと同じに聞こえますが。クラウドのそれは明らかに違いますが。


「敬語だからですかね?でもイントネーションもアクセントもちょっとずつ違いますよ。よく似非関西…ジョウト弁って言われますし。クラウドさんと話していると特に訛ります」
「では、普段同郷のご友人にはどのように話されるのですか?」
「あ、それ気になるわ。、ちょっとわしのこと友達や思って話してみ?」
「えー…まぁ、クラウドさんが良いなら、私は構いませんけど」


そう言って、様は何度か咳払いをしました。
年齢的には叔父でもおかしくないクラウドを、友人だと脳に無理やり思い込ませようとしていらっしゃるのでしょうか。ことば遣いというものは、簡単に切り替えが出来るわけではないようです。
わたくしは誰に対してもこの口調ですから、あまり分かりませんが。


「…ええと、じゃあ。きんのうは何しとったん?」
「昨日か。昨日はな、一日中ミネズミの厳選しとったな。9連勤明けの休みやったから」
「これだから廃人は。予想通りの答えやったわ。けどえらかったやろ?性格に個体値に特性に、厳選はやることいっぱいやしな。ほんと、よぅやるわ」
「まぁそれが仕事やからな。それより、は何やしとった?」
「えぇー…きんのう、何しとったかなぁ。あぁ、あれしたわ。マッギャーパーティしとった」
「なんやねんマッギャーパーティて」
「マッギョ好きが集まってオフ会したんやって。バトルとか、交換とか。最近私もマッギョ使っとったし、近くでやってたもんで行ってみたんやよ。あとはケッタで3ばんどうろ走りからかしとったかな」


ちょっ、ちょっとお待ちくださいまし。


「なんですか?」
「なんです黒ボス?」
「わたくしには、お二人が廃人であることしか分かりません」
「うわぁミラーコートしたい」
「カウンター一択やな。自分も大概な休日過ごしとる癖によう言うわ」


…こほん。様のことばは、こうしてお聞きすると、随分クラウドのものと似ているようですが。


「アクセント的には東京…カントー式なんですけどね。でもジョウトともカントーとも違います。他地方の人には関西弁って言われるし説明しても理解してもらえないしで泣きたい」
、ケッタってなんやねん」
「チャリのことです。中学ん時はケッタマシーンって言ってましたね。…チャリってなんやったっけ」
「自転車やろ。わしんとこはチャリンコって言うてたけどな」
「あーそうそう、自転車やった。ボケたかな。って、クラウドさんと話してるとほんと訛るんですけど。勘弁してください」
「知らんわ」
「……わたくし完全に蚊帳の外でございます」










「人生のレールは2本しかない。好きか?嫌いか?それだけだ」
「無関心ってレールは無いんですか?」
「それは、初めから乗るのを止めているだけだ。けれど逃げていたって何も掴めやしない。それに気付かない内は、どちらのレールを選んでも意味がないだろうが」
「哲学的ですね」
「それで、黒ボスか、白ボスか、どちらを選ぶのか、どのレールを選ぶのか、そろそろ決めたのか?」
「またそれですかトトメスさん」











「きみ、ちょっと教えてほしいことが!」
「…鉄道員?なんで制服着てリトルコートに?…ってことは、」


これが噂のカズマサか。偶然にも鉄道員コンプだよこれで。


「あぁ良かった、ぼくを見て鉄道員って分かるってことは、バトルサブウェイに行ったことがあるってことだよね!」
「えぇ、まぁ…」


自慢にもならないがサブウェイ廃人としてそれなりに知名度があるらしい私を全く知らないってことは、やっぱり新人鉄道員なのだろうか。


「ぼくはカズマサ!バトルサブウェイで今から仕事なんだけど、どこにあるんだろうか?」
「えっ、と、ここを出て、しばらく左側に歩くと、右側に大きな道があるので、そこをずっと道なりに南に歩いていくと…」
「えっ?えっ?」
「…いや、一緒に行きましょう。私もバトルサブウェイに行くところでした。一緒に行きましょう」


実際はバトルサブウェイから来たばかりなのだが、今更放り出せない。
やったー、ヨーテリー2号ゲットだぜ!!ちなみに1号はシンゲンさんです。


「良いの?ありがとう、きみっていい人だね!」





「あー!カズマサ、いままでどこ行ってたの!?ってどうしてと手を繋いでるの!?」
「すみません!白ボス、迷ってしまって!すみません!」
「言い訳は後で聞くけど、今大事なのはそれじゃないっ。なんでと手を繋いでるの!?」


何故かもの凄く非難の目で見てくる白ボスに、繋いでいた手を外しながら答える。


「だってカズマサさん手を繋いでないとすぐどっか行っちゃうんで」
「うぅ…ちゃんごめんね」
「今度からは、迷わないようにしてくださいね。ライブキャスターにGPSアプリ入れれば、少なくとも自分の位置は分かります」
「うん…ありがとう。やってみる。でももしまた迷ってしまったら、」
「もちろん、いつだって迎えにいきますよ」
ちゃん…」
「カズマサさん…」
「ぼくを無視していい雰囲気つくらないでぇ!!」

2012.03.30. up.

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