Lucid Dream




構内を巡視してたら、ダブルトレインへの階段を降りたところで見覚えのある頭が見えた。
イッシュでは黒髪って珍しいから、すぐに誰か分かっちゃう。だ。

でも、ここで会えたのって偶然。最近シングルばっかだったのに、今日はダブルに乗ってくれるんだ。
ぼくは嬉しくなって、階段を駆け下りた。それから小さな背中へと手を伸ばす。
女の子に後ろから、ってのはマナー違反だろうけど、前からだと逃げられちゃうからしょうがない。まぁ身長でも足の長さでもぼくの圧勝だから、本気出したら逃げられないだろうけど。自慢かって?うん、そうだよ。使えるものは何でも使う、それがサブウェイマスターだから。

足音に気付いて振り返ろうとしたを、ぎゅっと抱きしめる。ぐぇっ、と潰されたオタマロみたいな声がしたけど気にしない。

駅員とお客さんがうわぁ、って顔でこっち見てる。でも男ばっかりだから、牽制になるかな。
うーん…今日もダブルのお客さん少ないな。でもが乗ってくれるならいっか。


見つけた!あのね、今度の木曜にね、」


けど胸を強く叩かれたから、離してあげる。途端にが大きく息をした。ちょっとやりすぎたかも。ごめんね
うぅ、それにしても痛い。けどこんなに触られて、おっきくなっちゃったら責任取ってくれるのかな。え、なにが、って、


「言わせねぇよ。白ボス、仕事は?」
「えっと、休憩?」


首を傾げてにっこり笑うと、はっ、と失笑された。
これ、女の子にやると大抵誤魔化されてくれるんだけど、何故だかには通用しない。ううん、内心では悶えてるらしいけど、流されてはくれないんだよね。


「嘘こくな。…じゃない、嘘言っちゃいけませんよ。さっき、スーパーダブルに強い挑戦者が乗ってるって駅員さんに聞きました。呼ばれてるんじゃないんですか?」
「今34連勝中!だからまだ呼ばれない!」
「34連勝か…がんばれ超がんばれ」


ったら、見たこともない挑戦者を応援してる。
たぶん昔の自分に重ね合わせてるんだろう。でも、今はぼくとおしゃべりしてるんだから余所見しないでほしいな。


「あのね、今度の木曜にね、ぼくとデートしようよ」
「…はぁ?ぱーどぅん?」
「ライモンシティに新しいケーキ屋が出来たの。ひとりじゃいけないから、一緒にいこ」
「…初めてのおつかいですか?」
「ちがうよ!そこね、カップルで行くと安くなるケーキセットがあるんだって。カミツレが雑誌でオススメしてた。ぼく、それ食べたい。勿論ぼくが奢るから。…だめ?」


ぼく知ってる。はいじっぱりだけど、押しに弱い。押しに押せば、すぐに折れてくれる。もったいないから誰にも教えないけど。あと、ぼくが首傾げるのにも、やっぱり弱いみたい。使うタイミングを間違わなければ、ほら。


「うっ…分かっててやるなんてあざとい。分かってるのに…くやしい…!でも…萌えちゃう!(ビクビクゥ(棒」
「えへへ、ありがと!」
「その笑顔まで天使なんて…。でも、スイーツ(笑)な女の子と行けばいいんじゃないんですか?白ボスだったら、奢ってでも一緒に行きたいって子、いっぱいいるでしょう?そういう子誘えばいいじゃないですか」
「やだ。勘違いされたら面倒」
「イケメン爆発しろ@ジュエル」
「それにがいい。これから6連勤するぼくへのご褒美だと思って、ね?おねがい」


ちなみに、今日で8連勤目だ。 サブウェイマスターの仕事は楽しいし、シフトはノボリも同じだから納得してるけど、さすがにちょっと疲れる。連勤後の楽しみがないとやってけない。
そう言うと、考え込むように口に手を当てていたは(でも隠してるとこ、ちょっと赤くなってる)、しばらくして手を外して、溜息をついた。

えへ、勝ち筋が見えたかも。ぼくクダリ。ダブルバトルが好き。2匹のポケモンのコンビネーションが好き。戦略の読みと駆け引きは、ノボリにも負けないよ!


「…ハァ。ちゃんと、サブマスだと分からないようにしてこれますか?」
「!するする。ちゃんと変装する」
「間違っても、ここで待ち合わせなんてしませんよね?」
「えっ、駄目なの?」
「自分の知名度の高さ知ってます?せっかく変装しても、一瞬でバレますよ」
「じゃあ、リトルコート前で待ち合わせで」
「こっちに渡るタイミングを間違えて、遅れちゃうかも」
は遅れないよ。もし遅れても、ずっと待ってるから」


ぼく、本当は待つの嫌い。だけどだったら待てる。言わないけど、スーパーダブルトレインで戦えるの、もうずっと待ってる。だから一日待つくらい、全然へっちゃら。


「…分かりました。色々思うことはありますが、わたしでよければ」


最後まで素直になれないが可愛くて、思わず抱きしめちゃった。
今度はガマガルが潰れたような声だったけど、そんながぼくは好き。


「ありがと、大好き!!」
「……だぁーもう、なんなんこの人!!」











バトルサブウェイの喫茶店が比較対象にならないほどの、オシャレな喫茶店。開店してまだ間もないからか、それとも噂に違わぬ美味しさ故か、たちが立ち寄る直前に満席になったようだった。
入り口近くのスペースに用意されたソファーに腰掛けながら、席が空くのを待つ。


「――そういうわけで、アーケオスにはもろはのずつきが必須だと思うんですよ」
「でも、それだとよわきの発動を早めるだけじゃない?ダブルやマルチだと一匹落としてももう一匹いるから」
「あーそっか…。どうしてもシングルで考えちゃいますね。…組むのはオノノクスかドリュウズでしたっけ?」
「そうだね。そもそもアーケオスがシングル向きっていえばそれまでだけど、そこはぼくたちの絆の見せ所。ノボリと一緒なら、負ける気しないよ。そういえば、はこっちに来て一度もマルチに乗ったことないよね」


マルチ、か。白ボスが言うように、こっちに渡るようになってから一度も乗ったことがない。
ゲームでやっているときは、選ばれなかった方の主人公、私の場合はトウヤくんが色々とやらかしてくれた記憶しかないため、中々挑戦する気になれなかったのだ。
だけど、こんな風に絆を見せ付けられると、こっちで信頼できる人が見つかれば挑戦してみようか、とも思い始める。

そうこうしていると、ウエイトレスさんが、空席待ちの名前を書いた紙を見ながら近づいてきた。


「――二名でお待ちの、は、廃人さま?」
「ぶふっ!」


コーヒー噴いた。
むちゃくちゃ可愛いウエイトレスさんの、小ぶりに膨らんだ艶やかな唇から発せられたことばに、待ち時間にと頂いていた試飲用のコーヒーが逆流しかける。しかけるどころかちょっと逆流した。汚くてすみません。でも手で押さえられたからセーフだよね?


「はいはーい。どこ?」
「え、えと、あちらの席になります。お待たせして申し訳ありません」


しかしそんな私を気にも留めず、白ボス…クダリさんはウエイトレスさんの後ろを着いていく。
私もティッシュで手を拭いてから、慌ててクダリさんの後を追う。

壁側の奥まった席に通される。
あぁ良かった。窓側の道路に面した席だったら、絶対に落ち着かなかった。

大体、白くないところから調子が狂う。
目の前に座る男は、カジュアルな装いと太めフレームの伊達メガネをしている。普段の格好とはまるで違うが、それでもどこかからにじみ出る何かがある。さすがサブウェイマスター。
今のところバレた気配は無いが、さっきから女の子の視線を総なめだ。うらやまけしからん。

ちなみにだけど、バレた時、後々めんどうなことになる可能性を考えて、私も普段とは違う格好をしている。どうだっていいね。ごめんね。


「…クダリさん(小声)」
「だって、本名で書いたら怒るでしょう?それにぴったりの名前でしょ、ぼくは廃人、も廃人」
「だからって、もうちょっとこう、ねぇ…」


小さな声で文句を言っていると、先程のウエイトレスさんが近づいてきた。
慌てて机の上のメニューを開く。…あぁこれが例の。繊細な細工とキラキラ輝くカラメルが掛かったそのケーキは、あのカミツレさんがオススメするだけあるなと思わせる一品である。
普段はスイーツ(笑)などと豪語するだが、写真を見るだけで、思わず一目惚れしてしまった。
……だけどカップルで行くと安くなる、じゃなくてカップル限定で頼める、じゃないこれ?


「ご注文はお決まりですか?」
「このケーキセット2つと、ぼくはカフェオレ。は?」
「ええと…、ミルクティー、ホットで」


某ケーキセットを頼んだ瞬間、どこかでぜったいれいどが使われたんじゃないかってレベルの薄ら寒さを感じた。
慌てて周囲を窺うけれど、ポケモンの姿はない。…え?人工?


「畏まりました。…あっ、すみません、このセットはカップルの方限定となっておりまして、お二人のご関係を彼女さんにお聞きすることになっているんですが、よろしかったですか」
「えっ」
「えっ。…っと、ごめん、ぼくこんなの知らなかった。ねぇ、この子もの凄く恥ずかしがり屋さんなんだけど、言わなきゃだめ?」
「申し訳ございませんが、決まりですので」


ですよねー…。申し訳無さの見えない声でお断りされ、粘る気も起きない。
だけど私が覚悟を決めればいいだけだし。ちょっと嘘つくだけだし。


「ごめん、他のにしよう」
「でも、これが食べたかったんですよね?いいです、この位。せっかくここまで来たんだし」


そう言うと、クダリさんがなんか輝いた。
もちろん物理的にではないはずだけど、色的にはモノクロツートンカラーなのになぜか実際に目が眩しい。…トーンの可視化でもしてんの?イケメンってそこまで出来るものなの?

と、現実逃避をしていると、しかしウエイトレスのおねえさんの一言で現実に引き戻された。


「よろしかったですか?」
「…は、はい」
、がんばれ!!」


できるできるわたしならできる。
ほらなんか応援してもらえてるし?ケーキ食べられるし?できるできる、できるって言ってるのもう!


「お二人の、ご関係は?」
「……つ、付き合ってます、わたしたち」
「はい、ありがとうございます。では少々お待ちくださいませ」


ウエイトレスさんが背を向けた瞬間ずつきの勢いで机にうつ伏せて、火照った顔を隠す。
あとでちゃんと拭くから今だけ許して。今顔上げられない。人に見せられる顔してない。

…い、言えたー!!!!!!!
だけど駄目だ。死ねる。恥ずかしさで死ねる。


「…今なら爆発できる……」
「………」


反応が返ってこない。いつもは無駄なくらいしゃべるのに、爆発しろってんですか。
ちら、と目だけを上げて、すぐに戻す。…なんで白ボスまで赤くなってるの。がんばれって言ったの誰ですか。ますます顔上げられないじゃん。


「…なんで無言になるんですか。何か言ってくださいよ」
「うん…ごめんね、でもなんでだろう、いまぼく、すっごく幸せ」
「…何言ってもいいわけじゃないです……」
「うん、ごめんね。幸せでごめんね。あはは、、真っ赤で可愛い」
「やっぱしゃべらないでください…」

2012.03.30. up.

TOP

Image by web*citron  Designed by 天奇屋