いや、夢でしょうと。
瞬間気付いたが、だからといって目が覚めることはなかった。明晰夢ってやつだろうか。
「ハハッ、ワロス。ワロス……なんだこれ」
乾いた空気。ひっきりなしに流れるアナウンス。中央にある良く分からないモニュメント。
まったく見覚えのない光景だが、しかし既視感はありすぎた。
「バトサブかよ…ここまでくると妄想乙。としか言い様ないわ…」
目の前に広がる地下鉄は、ゲームドットよりも鮮明である。3Dどころか360度視点完備、お決まりのBGMでなく駅特有の騒音が溢れているという豪華仕様。人生賭けてもいい、これは夢である。
ここのところ生活の大半で3ばんどうろを横断して育て屋のじいさん相手にフラグをおっ立てていた程度には廃人の自覚があるだが、まさか夢の中でまでポケモンに関わろうと思う程ポケモンスキーであるとは思いもしなかった。
しかしまぁ、最近は孵化作業ばかりで肝心のバトルサブウェイには行っていなかったから、目が覚めるまで満喫することにしよう。都合よくサンタテオツーな感じになったら目が覚めた時に気分が良い。
…それにしても、夢にしては随分としっかりとした作りの建造物である。
こんなに頭使って、朝起きたら頭痛いなんてことにならないだろうか。ポイヒガッサ(特性ポイズンヒールのキノガッサ+どくどくだま)の努力値配分を考えてた途中だってのに。
結局A124振りあたりが使いやすそうな気がするんだけど、こればかりは実際につくってみないと分からないからなぁ…。
「――あ、さん。ジャッジですか?」
「うひぁ!?」
突然掛けられた声に、思い切り驚いた。
は!?え、誰やし!…ってやしって何語やし!
声の方向に振り返ると、水色の髪の青年がきょとんと首を傾げていた。
なかなか爽やかな顔である。誰だ、……おまえジャッジか!ジャッジなんか!エメラルドの時は眼鏡のモブ顔仕様だったのに、いつの間にか出世したものである。
「あ、いつも言ってますがたまごの個体値はさすがに分かりませんよ!それで、今日はどのポケモンですか?」
「……え、あ、その、」
の顔に何を思ったのか、ジャッジはそう言って手を伸ばした。
ちょ、近い!パーソナルスペース侵略罪(?)で逮捕されろ!!てか近い!!!
脳内ではやかましいほどに叫んでいるが、口から出てくるのは顔なしもびっくりのドモリ声である。
そう、何を隠そう、このは重度の人見知りである。夢の中でくらいまともに話したいものであるが、人間そう簡単には変われないものらしい。
「…そうですか、ぼくのジャッジはいりませんか……」
…なんでそこでしゅんとなるかなこの人。
自分の顔面偏差値を理解しての所業だったら こうかは ばつぐんだ! よばかっ。いや実は高学歴かもしれない。なんか爽やかだし。(爽やかに対する思い込みが甚だしい)
「あ、じゃあこの子…」
なんだかイケメンにそんな顔をさせるのが申し訳なくて、腰についていたモンスターボールを一つ渡す。…腰のモンスターボールって別に卑猥な表現じゃないよ。本当についてたんだよ。おじさんのきんのたまと同じだよ。
しかし、ゲーム主人公は腰周りにモンスターボールが付けてなかったような気がするのだが、初代のイメージが強いからだろうか。ただし初代厨ではないので悪しからず。
「ロトムですか!しかもウォッシュロトム、珍しいですね!ふむふむ…この子は素晴らしい能力を持っている、そんなふうにジャッジできますね。ちなみに特にいい感じなのは、HP、特攻、特防、素早さでしょうか。最高の力を持っていますね」
ところどころセリフが違う気がするが、ジャッジはゲーム内でされたものとおおむね同じ。
あの時4Vが出た感動をこんなところ(夢の中)まで引っ張ってくるなんて、我ながらしつこい女である。
そういえば水ロトムもパーティに入れてた。もっぱら対人用だったために最近はあまり使っていなかったが。
「それで、今日はシングルですか?ダブルですか?」
「あ…、え、と…」
ジャッジに言われて思い出す。
そうだここはバトルサブウェイだった。ノッテ タタカウ!施設だ、せっかくの明晰夢だってのにイケメンに話し掛けられてぷまいかったです、だけで目覚めたらなんか勿体無い。こんなにリアルな感覚なのだし、バトルの一回や二回経験して、明日オフ友に自慢してやる。
けどダブルは孵化。じゃなくて不可。同時に二つ指示なんて出来ないに決まってる。
主人公視点だったら会話の途中に>はい いいえ が出るはずだが、今のところ何もコマンドが表示されない。たぶんバトルでも出ねぇなこりゃ。もちろん技構成は表示されなくてもばっちり把握してますがね。
「最近はスーパーダブルばかりでしたよね。ぼくとしては今日一日くらい、」
「シ、シングルにします!!あ、それといつも正確なジャッジありがとうございます!!じゃあまたっ」
じゃあまたゲームで!と言いながら長くなりそうな会話をぶち切って逃げ出す。
いやもう彼には毎日お世話になりました。特に低レベル時はカリキュレーター(個体値判定)が使えないからね。
ふしぎなあめはたくさん持ってるけど、ある程度は把握しときたいんだよね。本当にいつもいつもありがとうございます。ほんとジャッジは俺の嫁。
「お休みしてぼくと…って、」
けどシングル系トレインって何色だっけ?
たしか寒色だったような気がするが、ポンコツ脳にはピンク電車=スーパーダブルとしか思い出せないよ。
なんか後ろでイケメンが呼んでいる声が聞こえるが、気のせいということにしてとりあえず一番近い階段を降りてみることにする。これでカナワタウン行きとかだったら電車廃人の道に進もう。神は言っている、ここはトレインマスターになるべきだと。
「ノーマルシングル…?」