ナギサ の いかずち が あらわれた ! 4




「デンジさーん、おはようございまーす!開けてくださいー!!」

「…ん、おはよ。良い天気だな」
「ライラーイ!」
「おはようございます、良い天気ですね。ライチュウもおはよう。今日は美味しそうな干物をいただいたんですよ、楽しみにしててくださいね」
「んー…」


四日目、三度目の朝だ。

まだ眠そうなデンジさんが、ふらふらしながら通路を戻る。 もう一度ベッドに戻るのか、それとも顔を洗いに行くのか。…今日は顔を洗いにいくらしい。デンジさん、魚、好きだもんなぁ。

私はそれを一通り眺めてから、台所に入る。 数は決して多くないけれど、整理整頓された調理器具と食器類。雷模様のアクセントのついたお皿とカップと箸のセットは、一日目に由希が買い揃えた。ついでに、由希のものは水の模様だ。気に入っている。 シンク下の収納スペースの、そのまた奥から発掘された炊飯器は新品同様。今では台所の一角で元気に湯気を噴出している。

だし汁の入った鍋に火を入れて、泡が出てきたところで豆腐を入れる。 昨日の夜準備しておいたものを冷蔵庫から出して、お皿に盛り付ける。再び泡が出てきた鍋に次はわかめをいれて、あ、干物も、良い頃合いだ。


「ごはんは粒が立ってるし、おかずは三品。みそ汁は毎日違う具。我ながら上出来〜」


旅のあいだは一人分しか作らないので、どうしても手を抜いてしまう。けれどそれが自分の惚れた、尚且つ思いっきり迷惑をかけた人の分もとなれば話は別。加えて身につけた時間短縮技術を余すことなく発揮すれば、ほらこの通り。
これならいつでも嫁に行ける。ただし貰い手の有無はノーコメントで。と、作品の数々を眺めながら一人でニヤニヤとしていたら、デンジさんが扉の向こうから顔を出していた。


「出来た?運ぶよ」
「うわ!は、はい!じゃあ、これ、トレーごとお願いします」


こんな風にデンジさんが手伝ってくれるまでが、割と一苦労だった。

一日目、夜。
宣言次第、私はデンジさんの腰からライチュウ(モンスターボール)を奪った。「この子はデンジさんがちゃんと今晩食べてくれたらお返しします」

ライチュウは素直で良い子だった。 ジムの外に出た途端モンスターボールから飛び出してきたのにはびっくりしたが、甘えてくるライチュウに格好を崩さないトレーナーはいない。主に似ず、懐きやすい性格のようだ。
スーパーに案内してくれたのもこのライチュウである。そうしてスーパー『ナギサ』でのタイムセールを勝ち抜いた私は、デンジさんの無言の圧力に耐えながらもなんなくデンジさんとデンジさんのポケモンの胃袋を掴むことに成功したのであった。

ジムを出る際、ライチュウに「うちの子にならない?」と持ちかけたら、なんとポケモンセンターまでついてきていた。かわいいやつめ。そのあとデンジさんが迎えに来た。

二日目、朝。
ジムの入り口で呼びかけてみても、返事が無い。ドアにはもちろん鍵がかかっている。
仕方がないので、ジムを一周してみることにした。すると、カーテンの閉まっていない部屋があった。例の部屋だ。
覗き込む。デンジさんがいた。机に向かって、うつ伏せで眠っている。その傍には機械の部品のようなものが転がっている。ベッドの上にはライチュウ。
窓をノックしてみると、ライチュウがピクンと動いて、顔を上げた。キョロキョロと首を動かしている。もう一回ノックする。するとライチュウが気づいて、近づいてきた。


「玄関、開けてくれる?」


窓越しでも五感の優れるポケモンにはちゃんと届いたらしく、無事侵入に成功。すぐに準備に取り掛かる。 朝食が出来あがったころに、デンジさんはやっと起きてきたのであった。もちろん、ベッドで寝るようには再三言っておいた。


三日目、朝。
一度呼び掛けたところでインターホンの存在に気づいた私は、トバリのゲームコーナーで鍛えた指テクを披露することにした。 ピンポーンー……返事が無い。ただのしかばねのようだ。ピンポーンー…     ――…3分経過。

ピンポンピンポンピポピポピポピポピピピピピピピp

「――うるさっ!」
「あ、デンジさんおはようございます。それより今、1秒間16連打の壁が越えられそうなんですけど、」
「帰れ」


……ん、まぁ、昨日は私も悪かったかな、うん。


「「いただきます」」


ふたり手を合わせて、呟く。

には幼いころからの習慣(あたりまえ)であったその所作は、デンジにとっては見たこともなかったらしい。
何それ、と言われて驚愕したのは3日前の夜。けれど今はこうして二人で行うようになった。別に真似しなくてもいいですよ、とは言ったものの。

しばらく、無言で箸を進める。
……さすがシンオウ、北海。魚の旨さは地方随一だ。どんなにおかずに手間をかけてみても、自然の旨さには負けてしまう。


「…干物、美味しいですね」
「うん。――これ、おかわりある?美味い」


そう言ってデンジが箸でつついたのは、ほうれん草の白和え。
デンジさん、渋いトコ突いてきますね。…じゃなくて、やった、褒められた。心のメモ『デンジさんのお気に入りレシピ』リストに白和えを追加する。


「ありますよ、持ってきますね。ご飯もおかわりですか?」
「あぁ」


デンジからお茶碗を受け取って、トレーにのせる。
間取りの都合上、食事をするスペースはこのベッドのある部屋しかない。だから台所にいくには一度部屋を出る必要がある。

ご飯を盛りながら、はさきほどいた部屋に思いをはせた。
あの部屋も、ちょっとずつ物が増えて暖かくなったような気がする。まず、緑が増えた。ちゃぶ台の下のビリリダマカーペットはがスーパーの福引で当てたもの。 そのちゃぶ台は、改造の際に出た廃材を使用したデンジお手製の一品。

最初の日、食事を作ったはいいがどこで食べるかという問題に突き当たったとき、デンジが短時間でものの見事に作ったものだ。 それを横で眺めながら、ジェバンニもびっくりだなとは感心した。ジェバンニとはの好きな死神マンガに登場する人物のことである。


「そうだ。改造の方はどんな感じですか?」
「仕掛けは8割方完成したよ。瓦礫もジムトレーナーに手伝ってもらってほとんど片付いた。ただバトルステージが届くまでは、天井と壁が直せないからな。ちょうど他の地方でも相次いで発注があったらしく、届くまでに時間がかかるそうだ」
「はぁ…。誰かがジム破りでもやってるんですかね?ステージって、天井取り外して入れるんでしたっけ?大きいですもんね。あと一週間は全国的に雨降らないそうですし、時期的には良かったですよね」
「まぁな。ま、そんな馬鹿力が何人もいるとは思わないけど。ここに一人いるし」
「デンジさん、そんなこと言ってるとお昼ごはんキュウリのフルコースにしますよ」


にっこり微笑んでみせると、すみませんとデンジがすぐに頭を下げた。
たぶんキュウリのスープもホットキュウリも美味しいですよ、見たことないけど。


「冗談です。お昼の分はもうタッパーに詰めてあるんで、レンジでチンしてください」
「冗談な顔してなかっただろ。――…分かった。ごちそうさま、美味かった」
「おそまつさまでした。後は私が片付けておくので、今日も頑張ってくださいね」






濯いで水をきったお皿をフキンで拭き、棚に仕舞う。 それからこれから改造の手伝いに(といっても改造はすべてデンジがやるから、もっぱら雑用係らしい)くるジムトレーナーさん達用に軽食とお茶菓子を用意する。 ここまでがが自分で決めた仕事だ。

デンジは何もしなくて良いと言ったが、さすがにジム破壊の張本人としては、見て見ぬ振りは出来ない。

さて、そこからは、の自由時間。
これまではトバリとノモセのジムに再挑戦した。バッチを集めきった今では、ジムリーダーのレベルが格段に違う。どちらでも素晴らしい経験が出来た。……うん、今日はヨスガシティまで行こう。今からギャロップに乗って行けば、夕方までには余裕でナギサシティに戻れるはずだ。 地図を出す。ギャロップなら沼地でも関係ない。212番道路を通っていこう。でもやっぱり、雨が降ってるから嫌がるだろうか。メリッサさん元気かなー…。

『ピピ、ピピ、ピピ、ピピ――…』

「わっ、」


地図をしまっていると、突然、リュックの中の電話が鳴った。慌てて取り出してみると、そこには兄の名前が表示されていた。
そういえば、と思う。チャンピオンに挑戦する前くらいから電話してない。母から、あのバトルのことを聞いたのだろうか。


「もしもし、お兄ちゃん?……うん、私もポケモン達も元気だよ。え?今、何してるかって……――」

2010.06.19. up.
2011.08.22. 改

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