ドラマでもよくあるが、北に逃げるのは人間の性なのかもしれない。
『北』という字はもともと、「逃げる」「背く」という意味を表わす形だったらしいし。
「――…あっ、返事聞き忘れた!!」
あれだけ恥を塗り重ねたら、もうひとつくらい重ねたって変わらない。
みっともなくても、言葉にして聞けばよかったのに。
そうすれば、さすがのデンジだって答えてくれただろう。無かったことにされるよりよっぽどすっきりする。
…それ以前に、身一つ(トレーナーの性として、6つのモンスターボールは退院早々装着したけれど)で駆け出したはいいが、つまりは荷物全部あの部屋じゃない……。
ジムを飛び出して、無意識にナギサ北の海岸に走ったところで、はやっと冷静になった。
この程度の距離だったら、全速力で走っても息は切れない。
それも、何も持っていなかったから出来たことだ。
入院中使った衣服も含め、荷物はすべてジムに置いてきてしまった。もちろんポケモンセンターを利用するのに必要な証明書もそこに入っている。
――…戻るしかない、よね。
「何の?」
誰もいないと思ったのに、返事があった。
聞き慣れた声。ここ数年は電話ごしで話すことが多かったが、それでも聞き違えることはない。
振り向いて、予想どおりの姿に破顔する。
「お兄ちゃん!…と、ダイゴさんっ。どうしてここに?チマリちゃんは?」
「今さっき別れたよ。ここの子だろうと、あんなにちっちゃいんだから陽が落ちる前に帰らなきゃな。オレたちはここ見てから戻ろうと思って」
「そっか。お兄ちゃんが言うと説得力ないね」
ジョウトにいるときもホウエンにいるときも、兄はアウトドアにも程があるって位いつも家にいなかった。
当然のように日が落ちる前に帰ることもなかったけれど、父も昔から同じような感じだったらしく母はあまり心配していなかった。そんな両親と兄を見て育った私は…まぁ、それなりに?
ユウキの視線を追って再び海に目を向けると、ちょうど太陽が西の空に沈んでいく所だった。
ガラス張りのタワーやビル、街中のソーラーパネルが残滓を反射して、最後の輝きをみせている。
『たいようのまち』に相応しい夕焼けだ。
「…綺麗だよねぇ、この街。海も山も、ホウエンの色とどこか違うの。どっちが良いとは思わないけど、わたしは好き。お兄ちゃんはどう思う?」
「ホウエンともジョウトとも違うけど、いいところだと思うよ。でもオレ寒いの得意じゃないから」
「私だって得意ってほどじゃないよー。でもね、ここってほんと凄いの。春先だってのに積雪2メートル超えててね」
「埋まるじゃん!!」
「うちの子は埋まったよ」
積雪から時間が経っていたから硬かったが、それでも由希のパーティの中の最重量クラスのポケモンは瞬く間に沈んで、埋まった。けれどそんな自然の厳しさも、南国では見られない生活の知恵も、全部ひっくるめてこの地方は素敵だと思う。
そういえばダイゴさんが静かだなぁと兄から視線を横に向けると、にっこにこ微笑んでいる。
孫?私達孫ですか?