ナギサ の いかずち が あらわれた ! 17




打ちひしがれるようにちゃぶ台に顔を埋めていると、コツンと音がした。 顔を上げると、デンジさんが湯のみを置いたところだった。ちゃんと二人分ある。「ありがとう、ございます、…」ぶるぶると震える両手で抱えて口に運ぶと、中身は暖かい緑茶だった。

ふぅ、と息を吐く。

兄の説教がマシンガンなら、ダイゴの小言はアサルトライフルのようで、近距離から発せられる連続した銃弾と弾の補充の間援護射撃のように遠距離から発せられる高威力の銃弾は、確実にの胸に命中していった。疲れた。


「…自分、フラグってのが分かってなかったッス……」
「またキャラ変わってるぞ。まぁ、どうしてわざわざ立てるかなとは内心思ってたけどな」
「分かってたなら、折ってくれても良かったじゃないですか!……パトラッシュ…僕もう疲れたよ…」
「レントラーだから。それレントラーだから」
「……デンジさん、キャラ変わってますよ」


お前が言うなと呟きながら、デンジも湯のみを寄せる。 デンジの前には書類が何枚かと文具が数点。ちゃぶ台の下には更に積まれた書類が隠れている。この部屋で仕事をするつもりなのだろうか。
抱きついていたもふもふレントラーから身を離し、は座り直した。レントラーはもう終わり?と首を傾げると、床にでろんと身を伸ばして寝そべる。

カリカリという音が部屋に響く。

事務業の経験が無いは手伝いを申し出るわけにはいかず、湯のみに口をつけながらじっとデンジの姿を眺めた。 なんでホウエンにいる時にお父さんの仕事を手伝っておかなかったんだろうと後悔しながら。

至福の一服というにはちょっと安いお茶だが、このまったりとした空気は至福だ。 それもこれも、チマリがダイゴと兄を引っ張って遊びに行ってくれたおかげ。 ナギサツアーご一行とご機嫌だったから、きっとポケモン岩にも連れて行くに違いない。 そうなれば数時間は帰ってこないだろう。石に目がないあの人がついているのだから。

そういえば、とは思う。

――お兄ちゃんと合流したって、お母さんに言ってないや。
昨日病院で電話して無事を伝えた際、また連絡すると言ったことを思い出す。


「あの、デンジさん。母に連絡してきます」
「ん、」


鞄から携帯を取り出して立ち上がると、デンジが座っていた場所を指差したここで電話すれば、ということだろうか。この部屋には冷房かけられてて涼しいから、ありがたい提案ではある。 屋内とはいえ8月半ばの気温と湿気は馬鹿にならない。ギブスの中は推して知るべしだ。取れるまで洗えない。


「…じゃあ、お言葉に甘えて。煩かったら言って下さいね。――…、」


履歴ページを呼び出して、上位にある母の名前を選んで発信ボタンを押す。


「お母さん?」
『あら、、昨日ぶり。退院したのね、ユウキには会えた?』
「うん。でも今はお兄ちゃんに絞られて…」

心折れそう。電話口に囁くと、電話の向こうでお母さんが笑う。

『これからどうするの?ママはミシロであなた達が帰ってくるのを待ってるわ』
「これから…、」


これから、と言われて、思わず顔を上げる。
目の前ではデンジがペンを動かして次々と書類を埋めている。 集中しているのか、無関心を装っているのか、視線を感じているだろうにペンの動きは淀みない。 ――これからを決めるには…ケリ、つけなきゃ。


「お母さん、私、もう少しこっちで頑張るよ。チャンピオンになれてもなれなくても、やりたいことが見つかったの」
『分かったわ。でも、たまにはホウエンにも帰ってきなさいよ。パパが寂しがってるわ』
「おおお、お父さんが?分かった、とりあえずお正月には一度帰るから」


…今は8月だけど。


「じゃあ、また電話するから。元気でいてね」
こそ、これ以上やんちゃしないようにね。ママとパパはいつでものことを応援してるわ』


ありがとうと言って、電話を切る。物凄く心配かけたのに、そんな私をまだ応援してくれている。
携帯を握り締めて、胸に押し付ける。――ありがとう、ママ、パパ。私頑張るよ。


「――デンジさん、」

2010.08.19. up.
2011.09.01. 改

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