トレーナーが二人集まれば、始まるのは決まってバトルかポケモン自慢だ。
ここでもその法則は違わず繰り広げられていた。
「――それで、その時から炎を熱く感じなくなったんです」
「へぇ。それからはずっとギャロップに乗って移動しているのか?」
「歩けないほど疲れたときとか、徒歩で行けないところは。野生ポケモン見逃したらもったいないですもん。けどどんな道でもあの子は跳べますし、とっても助かるんですよ」
病院からの帰り道。渡したいものがあるとのデンジの言葉で、はポケモンセンターではなく直接ジムに行くことになった。
事件の日までは朝晩通ったポケモンセンター・ナギサジム間の立体道路。
太陽の光を反射して輝く道は、暗い洞窟の中を彷徨ったには感慨深く映る。
「あ、でも、ノモセの西側っていっつも雨が降ってるじゃないですか」
「ノモセの西…沼地のあるところだっけ?」
「そこです。あそこだと嫌がって出てくれないこともあるんですよ。でもどうしても急いで渡らなきゃいけないってときは、こうやって両手合わせて…って、そうだ、手、合わせられなかったんだ」
ギブスに包まれた右手を揺らしながらは呟く。
けれどすぐに「両手合わせてお願い〜って頼み込むんですよ」と悪戯っぽく笑ってみせる彼女に、まだ十分には割り切れてないようだなとデンジは思う。
「そうだ!デンジさん、挑戦者が来たときレントラーに乗って登場してみたら面白くないですか?前々から思ってたんですけど、ダルそうに座って待っててよっこらしょって立ち上がるのはスターらしくないです」
「……お前、アフロとセンス似てるのか?」
『オレがポケモン出すときアフロからポケモンでてきたら、相手はビックリするだろうな!おもしろいと思わないか?』
それを聞いた時はオレに迷惑かけないなら勝手にしろよ、と思ったものだが、自分に関係があるなら話は別。いくらの言うことでも、受け入れられるものと受け入れられないものがある。
アフロ…?とが聞き返したとき、デンジの携帯が震えた。
ちょっとごめん、と言いながら、ジャケットのポケットから取り出す携帯を出す。画面に表示された名前は…――
窺うような視線にどうぞ?とが首を傾げると、デンジはゴメンと口を動かして、携帯を耳に添わせた。
「何だ?……分かった。あと5分くらいで着くから、……、ああ、頼む」
相手はジムトレーナーだろうか、とは歩きながら思う。挑戦者の連絡だろうか。あのジムはどんな魔改造を受け、今トレーナーを待ち受けているのだろう。
最後にナギサジムに行ったのは、の感覚では2日前だ。けれど実際は6日前だという。
ジムの設備は、が消えた次の日に完成したのだとデンジが言っていた。が正しい日付を知って次に尋ねたのはそれだった。
新しくなったジムを一般人として一番初めに見られるチャンスを棒に振ったのは、悔しくもある。普通の人なら毎日改造の様を見ていながら今更一般人とはいえないだろうと考えるだろうに、にその考えは無かった。
そうですか、おめでとうございますと隠し切れないほど気落ちした声で頭を下げるに、次に改造したら一番に見せてやるからと全国のトレーナーからそろそろ暴動を起こされそうな慰めをするデンジもデンジではあった。
「、」
今、どんなトレーナーがジムで戦っているのだろう。
……あれ?改造が終わったら、そもそも私ってお役御免じゃなかったか…?あれ?……あれ?
「!」
「…っ、は、はいっ!」
反応の悪いに訝しげな目を向けながら、デンジは携帯をしまいつつ用件を述べた。
「二人が到着したそうだ。今ジムにいる」
「二人って…お兄ちゃんと、ダイゴさんですか?どうしてわざわざジムに?」
「病院では話す時間が無さそうだったから、ジムに直接来てもらったんだ。会計待ちの時にメールしてたんだが、気がつかなかったか?」
会計待ちの時……寝てた。メールどころか隣で貧乏ゆすりされても気づかなかっただろうってくらい熟睡してた。
彼の右腕にはずっともたれかからせてもらっていたが、左手で打ってくれたのだろうか。右利きなのに。とてもやりづらかっただろう。
「…気付かなかったです」
「そうか。まぁそういうことだから、少しだけ急いでいいか?エリートトレーナーの二人はちゃんともてなしているだろうが、一人二人空気読まないやつがいる」
「ギャロップ、お願い。でも、バトルの申し込みは大歓迎な人達だから、大丈夫だと思いますよ?チャンピオンに会えるチャンスなんて滅多にありませんもんね。私だってそんなチャンスがあったら、バトルか質問攻めしちゃいますよ。…あ、ありがとうございます」
デンジの手を借りてギャロップに乗り、彼の歩調に合わせてナギサへと向かう。
「彼らにも?」
「いいえ、兄やダイゴさんは別ですよ。ダイゴさんにはチャンピオンって教えてもらう前から面倒みてもらってたんで、そういう気にはならないですね」
「そういうものか」
「そういうものです。…あ、見えてきた」
話をしている間に、道の向こう側にジムが見えてきた。
あそこに、ダイゴと兄がいる。両手を合わすことは出来ないから、ジムに向かって片手で十字を切り、祈る。
「お説教、一時間で終わりますように!!」
2011.09.01. 改