ナギサ の いかずち が あらわれた ! 14




ナギサシティ、市立病院。 緊急搬送された患者は、初日はもれなく個室に入院するらしい。
そんな病室の一つに、とデンジはいた。はベッドの上に座り、デンジは傍らでパイプ椅子に腰掛けている。 念のために行われた精密検査で血が足りない以外は表彰レベルの健康優良児と太鼓判を押されただったが、とりあえず一晩経過をみようとの判断で一日入院が決まった。

身につけていた服は検査の間にどこかへ行ってしまった。 あれだけボロボロで汚れてしまったのだから未練は無いが、このいかにも病人着といった感じの服は好きになれない。 退院するにも替えの服はポケモンセンターで借りた部屋に置いてある。けれどもデンジさん取ってきて、と頼むわけにはいかない。下着も一緒に仕舞ったのだ。もちろん理由はそれだけではないが。


「右手にギブス、左足は包帯ぐるぐる巻き。なんか、重傷患者みたいですね」
「十分重傷だよ。荷物はそこの棚に入れるみたいだな。――そうだ、着替えはナズナに頼んでおいたから、もうそろそろ届けに来ると思う」
「ナズナさん?…あぁ!ありがとうございます」


ジムトレーナーのナズナ。覚えている。初めて言葉を交わしたのはジム初挑戦の時だが、この数日、何度か顔を合わせた。 話した内容は決して多くはないが、好意的で、とても誠実な性格をしていた。ポケモンセンターに泊まっていることは以前伝えたが、覚えていたならそこから持ってきてくれるかもしれない。
だがしかし。デンジはどう伝えたのだろう。そしてナズナにどういう顔で会えばいいんだろう。うちのリーダー誑かしやがってなんて顔されたら。――気分はこれから姑との初対面を迎える嫁。

再会から預けっぱなしだった私物をデンジから受け取り、は備え付けのチェストへ入れた。検査の際に外したポケッチは、鞄のベルトに括り付けられている。 そういえばポケッチのアプリがいくつか壊れていたのだった。もしかしてデンジさんだったら直せるかも、と期待して手を伸ばす。

………。


「デンジさん、時計持ってます?」
「時計?携帯のなら、」
「見せてください!…うわっ!あの、これって間違ってますよね!?」


が指し示すのはデンジの携帯の、時計表示。 そしてポケッチの表示アプリはデジタル時計。二つをつき合わせれば、当然だが同じ日付・時刻が表示されている。


「間違ってない。正常に動いているよ」


ガツン、と。本当に頭を殴られたかのようには揺れた。意識との差異は、6日。無理も無かった。
手ごと携帯と鞄がベッドの上に落ちる。 だがそれらを気に留めることもなく、道理で今日の日付はってお医者さんに聞かれて答えたとき生暖かい顔で頷かれたわけだとぶつぶつ呟いた。

気に病む場所はそこなのか、と検査の間はジムに戻っていたデンジは内心ツッコむ。
普通6日間の記憶が無いことにショックを受けるものだろう。だがにとっては自分の記憶の整合性より外聞の方が大事らしい。変わった子だとデンジは思った。別に嫌いではない。

体感にして半日だが、時間の流れが外界と違って当たり前だろうトンデモ場所に迷い込んだことを自覚しているからためはその点に触れないのだが、言わない限りそれをデンジが知るわけがない。 そこでは木が横に生えて滝が下から上に流れるんですよなんて言っても誰も信じないし、言ったらそれこそ正気を疑われる。だから求められないかぎり言うつもりは無かった。
そんな経緯もあり脱出してすぐにデンジに会ったことを含めて夢としか思えなかったのだが、冷静になれば全身が痛くて仕方なかった。戦いながら逃げて、逃げて逃げて、戦って、やっと洞窟を抜けて…ひとつも夢じゃなかったらしい。


「さっき待合室で患者さん達が『神隠しにあった子が入院してるらしい』って騒いでたけど、のことだったのか」
「そんなオカルトな!っていうか噂回るの早すぎですよ。来て半日も経ってないのに」


検査のときの看護師かお医者か…あの看護師だろうか、噂の元。 綺麗な人ではあったが、看護師が全て白衣の天使などとは思っていない。愚痴や噂のひとつやふたつ、みっつくらいするだろう。けれど、待合室で噂になっているということは明日には病院中の話のタネだろう。それだけ病院の中は娯楽が無いのだ。


「看護師さんも患者さんも、そういう意味では暇なんだろ。――明日には退院だって?」
「はい。明日の午前中に簡易検査をして問題なかったら、帰っていいって言われました」
「そうか。明日ユウキくん来るって」
「はぁ……はぁ?」


ぽかんと口を開いたから目を離して、ベッドの上に放置したままだった携帯を持ち上げデンジはメール画面を開いてみせた。


「今はミオの鋼鉄島にいるんだったかな。『そらをとぶ』ですぐに発てない用事があるだとかなんだとか。お兄さんから伝言、『今日ぐらいおとなしく寝とけよ』だそうだ。寝相悪いのか?」
「そういう意味じゃないと思…ススス、ストップ!あのっ、話に着いてけないんですけど!」
「言ってなかったか?」


「『ユウキクン』と『ダイゴサン』。キミを探すために、シンオウにいるよ」

2010.08.19. up.
2011.09.01.改

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